スマートシティにおける公民館・図書館の役割変化と公平性:デジタル活用支援拠点としての機能強化に伴う課題
はじめに:地域に根差した公共施設への期待
スマートシティの推進は、私たちの生活に様々なデジタル技術による利便性をもたらす一方で、デジタルデバイド、すなわち情報通信技術を利用できる者とできない者との間に生じる格差という、重要な公平性の課題を内包しています。この課題に対応するため、自治体には地域住民へのデジタル活用支援が求められており、その活動の拠点として、古くから地域に根差してきた公民館や図書館といった公共施設が注目されています。
これらの施設は、住民にとってアクセスしやすく、多様な年齢層や背景を持つ人々が集まる場です。そのため、単なる情報提供や学習の場から、スマートシティ時代におけるデジタル包摂、すなわち全ての住民がデジタル化の恩恵を享受できる社会を実現するための「デジタル活用支援拠点」としての役割へと、その機能の強化が期待されています。
しかし、このような役割の変化は、新たな公平性の課題も生じさせます。本稿では、スマートシティにおける公民館・図書館の新たな役割を確認し、デジタル活用支援拠点として機能強化を進める上で自治体が直面する公平性の課題、そしてそれに対応するための具体的な方策について考察します。
公民館・図書館の新たな役割:デジタル活用支援拠点として
スマートシティにおけるデジタル活用支援拠点としての公民館・図書館には、主に以下のような役割が期待されています。
- デジタル機器・環境の提供: パソコン、タブレット、スマートフォンの貸し出し、高速Wi-Fi環境の提供など、デジタル機器や通信環境にアクセスできない住民への機会提供。
- デジタルリテラシー向上のための講座・研修: スマートフォンやパソコンの基本的な操作方法、インターネットの安全な利用方法、SNSの使い方、オンラインサービス(行政手続き、予約、買い物など)の利用方法に関する講座や個別相談会の実施。
- 行政サービスのデジタル化に伴う支援: オンラインでの申請手続きやマイナンバーカードの利用方法に関するサポート。
- 地域情報へのデジタルアクセス支援: 自治体からの情報や地域コミュニティの情報へのデジタルを通じたアクセス方法の支援。
- 交流を通じたデジタル活用の促進: デジタルツールを使った地域コミュニティ活動の支援や、住民同士がデジタル活用について教え合える場の提供。
これらの活動を通じて、公民館・図書館はデジタルデバイドを解消し、全ての住民がスマートシティのサービスを享受し、社会参加を維持・拡大できるよう支援する役割を担うことになります。
デジタル活用支援拠点としての公平性課題
公民館・図書館がデジタル活用支援拠点として機能強化されるに伴い、以下のような公平性の課題が生じる可能性があります。
- 地理的アクセス格差: 施設の立地や交通の便により、アクセスしやすい住民とそうでない住民との間で利用機会に格差が生じる可能性があります。特に高齢者や障害を持つ方、遠隔地に住む方にとって、拠点への物理的なアクセス自体がハードルとなる場合があります。
- 時間的アクセス格差: 開館時間や講座の実施時間が、特定の住民層(例: 日中働いている世代、夜間・早朝しか時間がない住民など)の利用を困難にする場合があります。
- 提供されるサービスの質・量の格差: 施設ごとの予算や人員、担当者のスキルによって、提供される講座の種類や内容、サポートの質にばらつきが生じる可能性があります。また、特定のニーズ(例: 障害を持つ方向けのアクセシビリティ配慮、外国語での対応など)への対応が不十分になることも課題です。
- 情報提供の格差: 拠点で行われるデジタル活用支援に関する情報が、デジタルツールに不慣れな住民に適切に届かない可能性があります。広報がオンライン中心になった場合、情報自体へのアクセスが困難になる住民が生じます。
- 利用環境の公平性: 施設の設備(例: プライバシーが確保された相談スペース、車椅子でのアクセスが容易な設備、音声読み上げ機能付きPCなど)が不十分な場合、特定の住民層が利用しにくい状況が生じます。
- 拠点機能の持続可能性と均一性: デジタル環境や技術は常に進化するため、施設の設備や支援内容を継続的にアップデートしていく必要がありますが、予算やリソースの制約から、全ての拠点で均一な質の高いサービスを維持することが困難になる可能性があります。
これらの課題は、せっかくデジタル活用支援の機会を提供しても、結果として新たな格差や不公平感を生み出すリスクを示しています。
自治体が講じるべき対策と方策
公民館・図書館がデジタル活用支援拠点として公平性を確保しながらその役割を果たすためには、自治体による計画的かつ継続的な取り組みが必要です。
- 拠点間の連携強化とネットワーク化: 個別の施設に留まらず、自治体内の複数の公民館・図書館、さらには地域のNPOや民間事業者、学校などと連携し、情報共有やリソースの相互活用を進めることで、地域全体のデジタル活用支援体制を強化します。オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型の支援体制も有効です。
- アクセス困難者へのアウトリーチ支援: 施設へのアクセスが難しい住民(例: 高齢により外出が困難な方、僻地に住む方など)に対して、ボランティアや専門職員による訪問支援、移動図書館ならぬ「移動デジタル相談室」のような取り組みを検討します。
- 多様なニーズに対応する支援プログラムの開発: 高齢者、障害者、外国人住民など、様々な背景を持つ住民のニーズに合わせたカスタマイズ可能な講座プログラムや個別相談メニューを開発・提供します。アクセシビリティに配慮した機器やソフトウェアの導入も重要です。
- 支援員の育成と質の確保: デジタル活用支援を行う職員やボランティアに対し、最新技術に関する研修だけでなく、コミュニケーション能力や多様な住民への対応方法に関する研修を実施し、支援の質の標準化と向上を図ります。
- 情報提供の多角化: 拠点で行われる支援に関する情報を、施設の掲示物、広報誌、地域の回覧板、民生委員による声かけなど、デジタル以外の多様な手段を組み合わせて住民に周知します。
- 利用環境の整備と継続的な改善: 全ての住民が快適かつ安心して利用できるよう、施設のユニバーサルデザイン化、プライバシーに配慮した相談スペースの設置、セキュリティ対策の徹底などを進めます。利用者の声を聞きながら、設備やサービス内容を継続的に見直す仕組みも必要です。
- 公平性の視点からの評価: デジタル活用支援拠点の成果を評価する際に、単なる利用件数だけでなく、地理的・年齢的・経済的背景などの異なる層の利用状況、デジタルスキルの向上度合い、社会参加への影響など、公平性の視点からの指標を組み込み、課題を継続的に把握し改善に繋げます。
結論:地域共生社会実現への貢献
スマートシティにおける公民館・図書館のデジタル活用支援拠点としての役割強化は、デジタルデバイド解消とデジタル包摂社会の実現に向けた重要な一歩です。これらの施設が持つ地域に根差した特性を活かし、住民一人ひとりの状況に寄り添ったきめ細やかな支援を行うことは、スマートシティの恩恵を一部の住民だけでなく、全ての住民が享受できるようにするために不可欠です。
しかし、その過程で生じる可能性のある公平性の課題に対して、自治体は積極的に向き合い、本稿で述べたような多角的な対策を講じる必要があります。公民館・図書館が真に全ての住民にとってのデジタル活用支援の最前線となることで、スマートシティが目指す、誰一人取り残されない包摂的な地域共生社会の実現に大きく貢献することが期待されます。継続的な取り組みと住民との対話を通じて、公平で持続可能なデジタル活用支援体制を構築していくことが、今後の自治体にとっての重要な課題となります。